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菜の花プロローグ花じゃないもん
背中に満月ノクターン天の河
うばう夏至私はヒミコ


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  菜の花




あたしが花になるのは
明日のことよ
ザンザンバラリ
泣き散らかして眠る夜は
それどころじゃあないわ


でも
ごらん


明日になれば
あたしの勝ちよ
しゃきっと甦って知らんぷり


力づくでくるなら
いらっしゃい
のぞむところだよ
腕のニ、三本へし折って
四の五の言わさず
ブスッ!
おんなは器量じゃあ
ないってば


泣いてるうちが花だった


なんてね
あとの祭り
あたしは振りむかないからね


いい婆さんになるよって
あんた
あたしを口説いたね
























  プロローグ




少しだけなんて
いやよ
根こそぎ奪って


少しだけなんて
いやよ
深々と沈めて


満たされる時は
思いっきり
頭の先から
爪先まで


少しだけなんて
いやよ
ありったけの情熱で
奪いなさいよ


奪い尽くされて
オールナッシング
空っぽの
わたし



まっ青


























  花じゃないもん




あいつが私に言うの
君も好きだよって


そうかもしれないね
赤い花もきれい
白い花も美しい
ピンクの花だってかわいいよ
だけど私は花じゃないもん


色とりどりの花に
心を添わせるように
私と向きあうのはイヤよ
だって私は花じゃないもん


めぐる季節のことは知らない
陽あたりのいい場所で
水や養分をほしがるだけの
そんな私は花じゃないもん


誰のためにも咲きたくない
きれいなだけの私は
そうよ花じゃないもん
花じゃないもん


私は私よ
私ひとりをみつめてほしい

























 
  背中に




気に入っているんだね
「そーけんびちゃ」
ジュースは糖分の摂りすぎになるって
今はすっかり薬草茶の気分
暗がりの公園で
かわりばんこに飲みほした
後味のKissはほろ苦く
これってやっぱり健康的?
知っているんだから


「だーれなの」
遠いまなざしを向ける相手は
ガッハッハと笑いころげて
「からあげクン」を頬ばる私は
カボチャの大将とてもいいたげだね
本当は一番好きなんでしょ
天然果汁五十パーセントの
濃密なリンゴジュース


「そーけんびちゃ」の空き缶を
ゴミ箱にすてるふりをして
ほかしきれないひと言を
そおっと投げる
ねぇ もっと甘いKissはダメ?



















  満月




欠けた月だね
まるいかんばせを保ちながら
半分にしか見えない月
錯覚することで信じあえるのですね
あなたも
私も


鉄骨の歩道橋を
あなたが先で
私があとから
肩を寄せあうよりも
いとしい距離なのに
不用意にたてる互いの靴音に
身をすくめてしまいます


遠い人だとは思いたくありません
ほら、笑ってる
ねぇ、怒ってる?
あ、泣いてる
感情線が
そのままあなたの方へ
流れていきます


歩道橋を渡りおえると
反対の方向へと回ってしまう
形のあるものを飛びこえて
まっすぐに歩いていくのですか


私はしばらく立っています
欠けていくことが
二人の日常のはじまりのように
見えないところで
私の水脈を
満たしております



























  ノクターン




午後七時を待ってお越し下さい
ご一緒いたしましょう
のぼりの傾斜は三十五度
檻のように張りめぐらされた
フェンスのむこう側
向いあう二匹の一角獣が
長い腕をふたつ折りに眠っています


坂道の途中に腰をおろし
ひととき夜風に吹かれてくださいますか
広々と空地の真ん中あたりに
新月がかかります


闇夜の明るさなのか
薄月夜の暗さなのか
定かではないものたちの影が
まっすぐに昇っていきます


月までの距離を手に入れた
二十一世紀の抒情というのでしょう
一人いてさびしい夜を
二人だとなおさら


絵のように
はかない光景を
いつか私たちは
”未来図”と
呼ぶのでしょうか


























   天の河




しらじらと
明け方の闇に
手をのばせば
なだれる声が届く


湿った土の匂いにむせながら
薄日の射す竹林を歩いた
静寂を伝えるふたりの足音に
時おりのの山が揺れた


沼地へと続くらしい
逆光の竹林を手をとりあって
どこまでも


夢は無実の罪を重ね
「ソラ」と指さす方向は
群竹にさえぎられ
二人の想いは通じるはずもなく


交差しながらそれていく
ふたりぶんの愛をわかちあえば
それだけのことだったと
人にも告げることができるだろう


愛は夢ほどのこともなく
沼地へと続く
天の河を渡る



























  うばう




ジャンケンポンで
君は五本の指を開く
私は五本の指を閉じる


欲しいものを得る時の
習性かもしれないね
見つめる瞳に激しさが増して
君は私の唇をふさぐ
両手をひろげ私をうばう


どんなに
包み隠そうとしても
私の負けよ
ほんとうは
全部君が好き


涼しい風が吹いて
海への通路がひろがっていく
つながれた舟たちが
肩を寄せ合い眠っている
身体を左右に揺すりながら
やさしい海のふところを
うばっていく


ゆこう
あの舟だまりまで




















  夏至




さまざまな
花の伝説を拒んで立ちあがる
葉鶏頭のつづく一本道を
ふりかえりもせずに
まっすぐに歩いていく
そんな君が好きだから
追っかけるのはやめにする
壁に貼ったエゴン・シーレは
もう はずそう


裸体でうずくまる
肩の線をなぞっていけば
君の体温がよみがえる
長い脚をふたつ折りにして
膝をかかえこんでいた
出遇いのころのスケッチを
いつか完成させよう
閉じられたままのかなしみを
首筋にうっすら添わせて
まだ幼さの残る面ざしを
斜めからとらえてみたい
たった一枚でいい
「これが私の愛した青年です」
そんな肖像画が描けたら


明暗の際を
さかさまに堕ちていく
私を
きっと嘆いたりしない
照りつける太陽のもと
鮮やかな影を置き去りにして
君は君の居場所にかえる


























  私はヒミコ




歴史の河をさかのぼって
ついていらっしゃい
見たままでいい
でも誰もそれを
正確に伝えることはできない
大切なことは
あなたがその場所にいること
その、といえば
それはもう過去のもの
今、というもっとも空白の時を
あなたは何で埋めますか?


明日にむけて予言する
あなたはヒミコ
今いる場所で
今在るままで
明日にむけて未来を予言する
私はヒミコ
あなたはわたし
わたしはあなた
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